原川が笑った―
「稲垣潤一」は笑わない
でも原川は笑った 嬉しそうに。
後半アディショナルタイム、
利き足ではない左足から放った弾丸ミドル。
―いい所にいましたね
いやいや、いつもそこで待っていた。
左サイドをえぐっては行き詰まった者たちの駆け込み寺のように、
パスを受けては柳のように受け止め、
何事もなかったように再びボールを返す。
にわかに人の感情を震わせるような動きではない。
むしろプレーがゆっくり見える。
速いのはサーチライトのように周囲を確認する「首」だけだ。
いや、もうひとつあるが、それは後で・・・
とにかくポジショニングが良い。良すぎる。
読みがいい。
プレーする時間とスペースを自分で作れるのだ。
この試合原川は、90分間お百度参りのように
ペナルティエリア神社に通い続けた。
そしてついに勝利への扉が開き、
原川は聖なる左足をフルスイングした。
ボールはゴールネットに突き刺さり
ドーハは歓喜に包まれ
リオデジャネイロの空へ、原川の「言葉」は舞い上がった。
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―オリンピック決めてくれて、有難うございます
「僕もとりあえず ホッとしています」
―決まった瞬間の気持ち、覚えますか
「ひとつの目標でしたし、とても嬉しいです」
―きょうは先制をして、その後追いつかれて、どんな90分でしたか
「やっぱ苦しい時間の方が多かったですけど、
みんなで耐えられたことが勝利の要因かなと思います」
―最後試合が終わるまで、原川選手、
どんなことを考えながらプレーしてましたか
「勝つことしか考えてないですし、それが実現できて
チームとしてより成長したかなと思います」
―ゴールのあの流れのシーン、少し振り返ってください。
思い出せますか
「あまり覚えてないですけど、いい所にこぼれてきたので
吹かさないように、抑えてシュート打って、
枠に入ってよかったです」
―色々な思いを各年代でしてきて、
イラクという相手に勝ってオリンピックを決めた。どんな思いですか
「僕自身もイラクに勝ったの初めてなので、
こういう舞台で勝てて、非常に嬉しいです」
―試合が終わってチームみんなが集まった時はどうだったのでしょう。
「上、乗られてきつかったですけど(笑) 嬉しかったです」
―これでオリンピック決めました。もう1試合ありますね
「やっぱり1位でオリンピック行くことが大事ですし
6勝して、オリンピック行きたいです」
―それにしてもこのチームの強さ、どこにありますか
「まとまりが一番いいと思うので、いい風がこのチームに吹いていると思います」
―そのままの勢いで、楽しみにしてます
「ありがとうございます」
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はやい! とにかく速い。
これだけ聞いて、話して 「1分17秒」
このテンポは世界でもトップクラスだろう。
質問が終わるや否や、「即答」
質問から答えるまでの間は1秒もない。
まさに「言葉のワンタッチパス」だ。
劇的なゴールを決めた直後とは思えないほど
興奮をコントロールする原川。
それにしてもU23の番記者たちは迷っているように思う。
この年代の主役は本当は誰なのか。
遠藤なのか、武蔵なのか―
「原川力」がいるではないか。
しかし「五輪Vゴール」を決めても、
どこか手放しで持ち上げようとしてない多くのメディア。
中田英寿のようにクールに見えて取材しづらそうだからか?
トークが速すぎて聞き取れないからか?
知識を逆に問われているようだからか?
安心してください。待ってますよ!
「J初ゴール」を決めて照れながらも嬉しそうだった「愛媛FC時代」。
あれから1年あまり、ようやく出たプロ2得点目が、
なんと「リオ五輪へのVゴール」。
「勝てない世代」の逆襲が、「原川力」のゴールで始まった―
◆リオデジャネイロオリンピック アジア最終予選準決勝
U23日本代表2-1イラク