野球の華はなんといっても「ホームラン」。
それを「期待された時」にぶちかますという
類まれな才能をもった野球人を
「ホームランバッター」と呼ぶ。
そんな男が今年、愛媛マンダリンパイレーツにいた。
「末次峰明」選手、24歳。
188センチ97キロ。
その体躯から搾り出されるとてつもないエネルギーを
バットに伝えてきた。
そしてそのバットがボールと時々正面衝突を起こす時、
相手の戦意を喪失させ、流れを変え、スタンドが沸き、
味方に勇気を与え、勝利を呼び込んできた。
しかし「時々」だった―。
おととしのリーグ日本人ホームラン王も
今年はその確率を下げた。
したがって「10月28日」は何事も無く過ぎ去った。
4日後―
見上げるほどの大男は
オレンジ色のユニフォームに身を包んでいた。
場所は松山市内のホテルの大広間。
「愛媛マンダリンパイレーツ感謝の集い」には
県内の政財界をはじめ大勢のスポンサー企業のトップらが集まっていた。
感謝を表すのはここでは球団側。
選手達は会場あちこちで支援への感謝の言葉を述べ、
来シーズンの巻き返しを誓い、
時に「別れの言葉」を口にしていた。
そして末次選手。
立食式の会場ながらどこにいても人目で居場所が分かるのだが、
その背中もある種の決意を湛えているかのように見えた。
お開きの時間が近づく頃、
その大男は真っ直ぐこちらに歩み寄ってきた。
表情には晴れ晴れとした「笑み」を浮かべて―
「きょう出発しました」
―えっ?
「よしきくん、きょうアメリカへ出発しました」
********************(救う会のHPより抜粋)
竹内義貴くん、9歳。
埼玉県新座市在住の彼は現在
「拘束型心筋症」という原因不明の難病により、
東京女子医大東医療センターで入院治療を受けています。
50万人に1人といわれる特に稀な心臓病で、
突然死もありうる恐ろしい病気です。
発病から2年以上に渡り可能な限りの内科的治療をしてきました。
しかし心機能は徐々に低下していることから、義貴くんの命を救うには、
心臓移植しか方法がなく、しかも早急な移植が必要な状況です。
日本でも2010年7月17日より、
15歳未満の子どもの臓器提供が可能になりました。
しかし義貴くんには日本国内でドナー(臓器提供者)を
待っている時間がありません。
幸いにも先生方のご尽力により、
アメリカ アーカンソー州/アーカンソー小児病院で
受け入れて下さることが決まりました。
しかし、海外で移植手術を受けるためには、
渡航費・手術費用・滞在治療費用など、
個人では負担できない膨大な費用がかかります。
そこで、私たちは大勢の皆様にご支援を賜るように
「よしきくんを救う会」を結成し、募金活動をすることになりました。
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社会人チーム「岩手赤べこ野球軍団」でプレーしていた時、
よしき君と知り合ったという末次選手。
お母さんとよく練習を見に来てくれていた
元気な6歳の男の子だったという。
その後、末次選手は
北信越リーグの「新潟アルビレックスBC」、
四国九州アイランドリーグの「長崎セインツ」、
そして今年、「愛媛マンダリンパイレーツ」と旅を続けてきたが、
まさかの連絡が末次選手の元に届いたのは今年の夏だった。
拘束型心筋症・・・5年生存率30%
「他人事ではないと思いましたし、力になれればと思って」
一報を受けた末次選手は、
「よしき君を救う会」の募金活動への参加を決意すると
愛媛マンダリンパイレーツの試合前後、
即席の募金箱を胸に抱え、スタジアム前に立ち続けた。
(今治球場で)
もう、大切なのは「自分の成績」ではなかった―。
「チームが勝ち続ければ、より多くの人に試合を見にきてもらえる。
よしき君のことを少しでも多くの人に知ってもらえる」
その後、愛媛は首位香川と熾烈な優勝争いを繰り広げた。
後期最終戦を残し、そのペナントレースにはピリオドが打たれたが、
9月26日の最終戦、坊っちゃんスタジアムには
2300人を超えるファンが駆けつけ、
末次選手も2安打を放ち、チームの勝利に貢献した。
「よしき君を救う会」には、
10月19日には、ボストンから「松坂大輔投手」、
そしておとといは、ソフトバンクホークスの「杉内俊哉投手」からも
激励のサインボールが届くなど支援の輪は全国に広がり、
10月21日現在、その額は9000万円を突破。
そしてきょう、
よしき君は晴れてアメリカへ飛び立った。
http://yoshikikun.blog133.fc2.com/#entry-97
「本当に有難うございました。テレビの力は凄いです。
よしき君、今頃、ちょうど飛行機の中ですよ」
深々と頭を垂れる大男、末次峰明。
今シーズン、ホームラン王は逃したが、
打球に込めた熱い思いは、
美しい放物線を描き、
まもなく海の向こうに届こうとしている。

(全力疾走の末次選手)