「無観客」の静寂と喧騒
私は「無観客試合」を経験したことがある。
静かに球場入りし、
静かなロッカーでユニフォームに着替え、
スパイクのひもを結び、
キャッチャーミットを抱え、
薄暗い通路を通りぬけてグラウンドに出る。
目に飛び込んできたのは、誰もいないスタンド―
そして、スコアボードには、こう刻まれていた。
【あいテレビ vs テレビ高知】(^^)/
野球王国の聖地、「坊っちゃんスタジアム」で行われた
JNN系列 中四国地区屈指の好カードだ。
私たちは黒字に白の縦じまという
まるでかつての「たけし軍」のような珍しいユニフォームに身を包み、
胸に躍る「パラダイス」の名のもとに勝利を目指した。
攻撃ではバッターに「狙っていけ~」と鼻息も荒く発破をかけ、
守備では、ピッチャーを「ドンマイドンマイ!」と励ますなど、
誰彼ともなく、休みなく送られる声援は、
無人の乾いたスタンドに、銀屋根に、とても心地よく響き渡っていた。
そんなことを思い出していたのは先週の日曜日、
インターネット放送で「無観客」で行われたプロ野球のオープン戦を見ていた時だ。
「カコーン」「カシッ」「クワッ」「スコーン」
乾いた打球音がこれでもかとドーム内に響き渡る。
あ~なんという快音!
「バシッ」「ビシッ」「パシーン」「スタッ」
白球とグラブの衝突が生み出す皮の摩擦音が
巧みの技を一層引き立てている。
あ~なんという心地よさ!
そして、ヒットになり、アウトになり、オーバーフェンスが飛び出せば
あちこちから一斉に湧き上がる「地鳴り」のような選手たちの叫び声―
あ~なんということよ。
プロでもこれほどまでに声を出していたのか!
生活をかけ、家族を背負い、しのぎを削っているグラウンドで
選手たちの口から思わず飛び出す心の叫び・・・
あ~なんと生活感満載なんだろう。
美しく生臭い人間の営みよ。
「無観客試合」が、図らずしてあぶり出してくれた
プロ野球の新たな魅力、そして価値―
そして"センバツ"だ。
「無観客開催」か「中止」か―

(阪神甲子園駅前にて)
きょう運営委員会の長い話し合いの末に
日本高野連の八田英二会長が、
午後6時14分30秒に発した答えは
「無観客試合で準備を進めてもらう」
ただ、依然中止の判断も含め、開催有無の結論は、
1週間後の「3・11」に持ち越された。

(甲子園球場1塁側アルプスより)
楽しみ方はいくらでもある。
ただ、"センバツ"は高校生の部活動だ。
議論は違う次元で行われている。
ちなみに野球以外の高校スポーツ界で
同時期に行われる「全国高校選抜大会」。
こちらでは高体連管轄の競技だけでも
柔道や弓道、なぎなたなど5つの武道や
卓球、ソフトテニス、ハンドボール、ラグビーなど
5つの球技を含め、すでに「20」の競技で大会の中止が決まっている。
それでも野球だけは特別なのか―
「1995年」も「2011年」も開催されたセンバツ。
国民に届けるのは、今回も「勇気」と「感動」だけならばいいのだが。

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