高橋浩由の「スポーツ素敵に隠し味」

2008年09月04日(木)

金メダルの取り方

s-北京雑誌.jpg 

「全部出し切ったんやないのか~っ!毅然とせいっ!」

 

試合後のベンチ裏通路。場所は坊っちゃんスタジアム。

声の主は、大野康哉監督。

そう、今から1ヶ月前の7月21日、

今治西は5季連続甲子園の夢が絶たれた。

 

誰もが今治西の優位は揺るがぬと思い、

なによりも選手自身が勝利を信じて疑わなかっただけに

その敗北のショックは相当なものだったことは想像に難くない。

 

そして冒頭の言葉である。

もちろん泣きじゃくる選手たちへ

大野監督流のねぎらいの言葉であるのは間違いないところ。

ただ、「全部出し切る」とは一体どういうことなのか。

 

負けたこと、ありますか―

 

一般的にスポーツ競技で「負ける時」というのは、

相手によって、敵によって、ライバルの力によって

自分の力を出せないよう相手にうまく立ち回られる場合が多い。

つまり、「本来の力なんか全く出し切らせてもらえない」状況だから負ける。

 

逆に、勝つためには「相手に力を出し切らせないようにしていく」のが常道だ。

 

なにも競技の最初から最後までずっと優位に立ち続けることではない。

それはとても難しい。

明らかに優位に立てるパートは、何も考える必要もない。

 

問題は「互角の勝負」にならざるを得ないパートだ。

そこで考えなければならないのが

「少しでも相手の調子を狂わせる方法はないか」。

 

その手法としては、「腕力」だったり「奇襲戦法」だったり、

はたまたスタンドの「大声援」だったり、それは本当に様々だ。

 

ただ最終的にはやはり、「目標を絶対に達成してやろう」という

「強い気持ち」が必要になってくるであろう。

結局、これを「全て」のエネルギー源としてやっていくしかない。

 

では「全て」とは何か。

 

競技中のパフォーマンスのみを指すわけではない。

・試合運び、レース展開などのイメージ作り、その裏づけ理論。

・リカバリー方法。相手の出方、リードされてから逆転への理論展開。

・ケガ、故障を負ったまま、出場せざるを得ない場合の心と体のバランス。

・競技者が同士が互いの戦術等を出し切ってもなお勝負が決しない場合、

 残された最後の領域としての肉体的強さ。

 

こうした様々なチェックポイントを日頃から準備していって初めて

「土俵の上に立つ」権利があるといえる。

 

そして初めて、相手の調子を狂わせるような

プレッシャーを掛けていくことも可能になる。

「強い気持ち」は欠かすことはできない。

 

星野仙一監督は「強い気持ち」を選手から引き出すプロ中のプロだ。

 

ただ、北京オリンピックの舞台で

いざ強い気持ちを持った選手が目の前に顔を揃えたとき

それだけで満足してしまったことはなかっただろうか。

勝てると思い込んでしまったことはなかったか。

 

「選手を信じる」という言葉によって

相手チームの選手が胸に秘める「強い気持ちの分析」を

「やや」怠りはしなかっただろうか。

 

まさかそんなことは無いと思うが、

専属スコアラーが分析した精緻なデータを

心のどこかで軽んじてしまってはいなかっただろうか。

 

プロ選手のプライドや経験則から

「やはり投げてみなけりゃ分からん。打ってみなけりゃ分からん」

という気持ちからデータを軽んじてはいなかっただろうか・・・

 

プライド結構。それが日本の野球文化を支えているのだから。

ただ世界の進化のスピードは年々加速度を増している。

そのことをバッターボックスで、

あるいはマウンドで実感しているようではまずい。

 

 

オリンピックが終わった。

金メダルを取った人の話は本当に興味深く、そして驚かされる。

 

北島康介と平井コーチはレース前日まで

フォームの改造、確認を繰り返していた。

そこには「プライド」などというそんな雑念は全く無い。

あるのは「どうしたら金メダルを取れるか」その1点のみだ。

考えて考えて、最後に出した答えが「勇気をもって、ゆっくり泳ごう」だったという。

 

陸上男子400mリレー。

朝原をはじめとする4人がレース直前まで取り組んでいたのが

「バトンの受け渡し」。

アンダーハンドパスで減速要素を極力減らす。

この「執念」あってこその銅メダルに人々は心を揺さぶられる。

 

ボート男子軽量級ダブルスカルの武田大作選手も、

残念ながら13位に終わったが、

レース直前までオールの入水の位置と出水の位置を工夫し

そのフォームの完成に全力を注いでいた。

 

「入賞はいらない。6位はいらない。金メダルしかいらない。

 でもこのフォームをマスターすれば絶対に速くなるって分かっているから

 ギリギリでも新しいことにチャレンジしたい。

 それはアスリートの本能だと思う。」

そう武田は言っていた。

 

「金メダル」に向かって「強い気持ち」を持って「全部」「出し切る」

 

一見、精神論を述べたような言葉でも

捉え方を誤ると結果は大きく変わってくる。

 

 

 

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