白球の消えた夏と夢の続き
「そうそう、この感じ・・・
いいですよね、野球って」
今月20日、
愛媛マンダリンパイレーツの
練習取材に行くと、
この日は「紅白戦」だった。
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新型コロナウイルスの影響で
未だ開幕日が決まらないものの
全体練習は再開している選手達。
対外試合はままならないが、
「罰ゲーム」をかけた!?
真剣勝負の紅白戦は、
緊張感もみなぎり、
迫力の攻防が繰り広げられ、
サヨナラで決着がつくなど
十分に見応えがあった。
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そしてそれは、試合後の
ミーティングの時のことだった。
「河原純一監督」が、
「A投手」を問い詰める。
●河原監督
「A!お前あのバント処理の時
一瞬2塁見ただろ。なぜ見た?」
●A投手
「間に合うかもと思ったからです」
●河原監督
「最終回で点差は? 3対1で
自分たちがリードしてるんだろ。
ノーアウト1塁で送りバント、
アウト1つくれるってんだから
ラッキーって貰えばいいじゃん。
1点取られたっていい訳でしょ。
2塁封殺なんか狙わなくたって、
迷わず1塁に投げて確実に
アウト1つ増やせばいいじゃん」
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このバント処理で、
A投手は捕球の直後、
一瞬1塁ランナーの動きを見た。
その動作は確かよどみなく
行われたように見えた。
ところがその無意識に近い動きを
挟んだことにより状況は変化し、
ランナーの足も速く、
1塁へ投じたものの
1塁2塁オールセーフ。
1アウト2塁のはずが、
ノーアウト1、2塁と
ピンチが拡大した。
ここからA投手はリズムを崩し、
フォアボールに連打で失点し、
最後はタイムリーヒットを浴びて
サヨナラ逆転負け―
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●河原監督
「あのバント処理で
確実にアウトを取っていれば、
打順の巡りも変わってくるし、
相手もプレッシャーを感じるし、
結果だって変わってくるんだよ」
そして、こう続けた。
「もっと1球を大事にしろよ!」
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野球は
「わずか1球で成長できる」
スポーツだ。
ましてや「1試合」あれば・・・
そんな時だった。私のスマホが、
ブルブルと騒ぎ始めたのは。
そして、この直後、
全国の高校球児たちに
衝撃が走った。
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日本高野連は、
夏の甲子園大会の中止と
各県予選の中止を決定―
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3月、選抜高校野球が中止になり
春のブロック大会と県予選が
中止された。
「それなら最後の夏に
かけてやろう」
全国の3年生球児が心に誓い
練習もままならない中
知恵と笑顔を絞り出し
SNS越しに励ましあってきた。
青春の奇跡を信じ続けながら
黙々とバットを振り
壁に向かい腕を振り続けてきた。
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また、みんなで野球がしたい―
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しかし高校球児たちは戦わずして
夢を諦めることを強いられた。
夢に挑戦することさえ
許されなかった。
当たり前のように
ボールを握っていたことが決して
当たり前ではないことを知った
2020年。
しかし「野球が好きだ」
という思いに素直になれた今、
目の前の「1球」は
かつての1球よりずっと重く、
「1イニング」は
かつての1イニングより遥に長く
「1試合」は、「人生」にも
置き換えられるほどかもしれない
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もしも―
真夏の坊っちゃんスタジアムに
彼らが再び集うことができたら、
その「1試合」は
もうただの「1試合」ではない。