「148キロ」に始まる安楽伝説
ずっと「荒木大輔」を思い出していた。
早稲田実業の1年生エースとして、
1980年夏の甲子園で準優勝に輝くと、
その後、2年の春夏、3年の春夏と5期連続で甲子園に出場。
元祖「ダイスケ」は社会現象だった。
もしかすると、そんなことになるのでは・・・
目の前で躍動する「巨漢」に胸がさわいだ。
済美高校 背番号18 「安楽智大」投手 1年生。
うなりをあげる剛速球。
銀屋根がない坊っちゃんスタジアムでも響き渡る
ミットを叩く重い音。
加えて、タイミング取りづらさ満点の「球持ち」のいいフォーム。
そして、最も印象的なのは投球前に見せる「直立不動の立ち姿」。
一切の雑念を排除した「素直さ」は、
相手にとってはとてつもなく脅威に映るだろう。
とにかく「148キロ」なのである。
夏の高校野球愛媛大会 準決勝
済美 対 今治西
試合は1対2、済美1点ビハインドで迎えた5回、
今治西の2番中西を迎えると、
141キロ、144キロでストライク2。
そして3球目、中西は見逃し三振。
スコアボードには「148」。
スタンドから湧き上がるどよめき。
結局、安楽投手はこの回を「3者連続三振」に切って取った。
どれだけの「才能」なのか見極めたい。
そのための舞台を用意してみたい。
敵味方はあるが、そんな欲求がスタンドに渦巻いているのが
手に取るようにわかる。
すると、そんな空気を読みきったのが済美のキャッチャー八塚。
マウンドに歩み寄ると、
一言で、この若き才能を解放させた。
「お前の思うとおり、どんどん楽しんで投げろ」
4月の入学時から自分がブルペンに入るときは
必ず相手を務めてくれた「八塚さん」の一言に
1年生投手は燃えた。
8回ウラ、今治西の攻撃は3番からのクリーンアップ。
1対3の2点ビハインド、1点もやれない状況だ。
しかしこのあと・・・
3塁側の応援団は「右から左へ」。
1塁側の応援団は「左から右へ」。
バックネット裏の高校野球ファンは「下から上へ」
「安楽」の投球とスコアボードの間で激しく首を振ることになる。
まず3番笠崎をセカンドゴロに仕留めると、
4番末廣には、「141」、「142」、「146」でフルカウント。
最後は143キロのストレートで空振りの三振。
そして5番中内に対し、初球「147キロ」
どよめくスタンド。
2球目「145キロ」
8回まできてこの球速か・・・
3球目「147キロ」
これは出るぞ・・・
そして1ボール2ストライクと追い込んで
次ぎの4球目。
「甲子園にどうしても行きたかった」
唸りを上げる真っ向勝負のストレートが
スコアボードに刻んだ数字は「148」。
「ファンの期待に応える」とは
こういうことと言わんばかりの「130球」。
結局試合には敗れたが
安楽投手は記憶と記録に残る鮮烈なデビューを飾り
最初の夏を終えた。
準決勝第2試合 坊っちゃんスタジアム
今治西3-2済美
あすは決勝。
川之江 対 今治西
2012年夏、愛媛59校の頂点が決まる。