高橋浩由の「スポーツ素敵に隠し味」

2012年7月28日(土)

「148キロ」に始まる安楽伝説

ずっと「荒木大輔」を思い出していた。

 

早稲田実業の1年生エースとして、

1980年夏の甲子園で準優勝に輝くと、

その後、2年の春夏、3年の春夏と5期連続で甲子園に出場。

元祖「ダイスケ」は社会現象だった。

 

もしかすると、そんなことになるのでは・・・

目の前で躍動する「巨漢」に胸がさわいだ。

 

 

s-安楽 試合前.jpg 

 

 

済美高校 背番号18 「安楽智大」投手 1年生。

 

うなりをあげる剛速球。

銀屋根がない坊っちゃんスタジアムでも響き渡る

ミットを叩く重い音。

加えて、タイミング取りづらさ満点の「球持ち」のいいフォーム。

 

そして、最も印象的なのは投球前に見せる「直立不動の立ち姿」。

一切の雑念を排除した「素直さ」は、

相手にとってはとてつもなく脅威に映るだろう。

 

 

s-安楽 直立不動.jpg 

 

 

とにかく「148キロ」なのである。

 

夏の高校野球愛媛大会 準決勝

済美 対 今治西

 

試合は1対2、済美1点ビハインドで迎えた5回、

今治西の2番中西を迎えると、

141キロ、144キロでストライク2。

そして3球目、中西は見逃し三振。

スコアボードには「148」。

 

スタンドから湧き上がるどよめき。

結局、安楽投手はこの回を「3者連続三振」に切って取った。

 

 

s-安楽 投げる.jpg 

 

 

どれだけの「才能」なのか見極めたい。

そのための舞台を用意してみたい。

敵味方はあるが、そんな欲求がスタンドに渦巻いているのが

手に取るようにわかる。

 

すると、そんな空気を読みきったのが済美のキャッチャー八塚。

マウンドに歩み寄ると、

一言で、この若き才能を解放させた。

 

「お前の思うとおり、どんどん楽しんで投げろ」

 

4月の入学時から自分がブルペンに入るときは

必ず相手を務めてくれた「八塚さん」の一言に

1年生投手は燃えた。

 

8回ウラ、今治西の攻撃は3番からのクリーンアップ。

1対3の2点ビハインド、1点もやれない状況だ。

 

しかしこのあと・・・

3塁側の応援団は「右から左へ」。

1塁側の応援団は「左から右へ」。

バックネット裏の高校野球ファンは「下から上へ」

「安楽」の投球とスコアボードの間で激しく首を振ることになる。

 

まず3番笠崎をセカンドゴロに仕留めると、

4番末廣には、「141」、「142」、「146」でフルカウント。

最後は143キロのストレートで空振りの三振。

 

そして5番中内に対し、初球「147キロ」

どよめくスタンド。

 

2球目「145キロ」

8回まできてこの球速か・・・

 

3球目「147キロ」

これは出るぞ・・・

 

そして1ボール2ストライクと追い込んで

次ぎの4球目。

 

「甲子園にどうしても行きたかった」

 

唸りを上げる真っ向勝負のストレートが

スコアボードに刻んだ数字は「148」。

 

「ファンの期待に応える」とは

こういうことと言わんばかりの「130球」。

 

結局試合には敗れたが

安楽投手は記憶と記録に残る鮮烈なデビューを飾り

最初の夏を終えた。

 

準決勝第2試合 坊っちゃんスタジアム

今治西3-2済美

 

s-あすは決勝.jpg

 

あすは決勝。

川之江 対 今治西

2012年夏、愛媛59校の頂点が決まる。

 

 

2012年7月25日(水)

小松中野と今西伊藤 

挨拶後、そこにいる選手達は

まるで同じチームのようだった。

 

 

s-今西vs小松.jpg 

 

 

 

第3シード小松 対 今治西。

 

元今治西の名将」と「県内屈指の鬼軍曹」の対決。

「秋の覇者」 対 「去年夏の覇者」

 

そして、同じ「クリーム色のユニフォーム」

見所満載だ。

 

しかしまさかスコアボードまで

上下同じ「0」行進になるとは想定外。

 

 

小松のエース「中野涼介」。

 

「コントロールには自信があります」

 

スパッと言い切る潔さ。

この試合でも、5回まで緩急自在、横幅一杯、

なんでもござれのピッチングで3安打無失点。

とても心地よい。

 

しかし、今西の背番号10、サウスポーの「伊藤優作」。

中野を上回った。

 

まずは5回までを「ノーヒットノーラン」

 

左から大きく割れるカーブ。

待てばストライク。

叩いていくしかない。

でも叩けない。

三振は5回までで7個を数えた。

 

両投手は、7回以降も

まるで共同作業のように

スコアボードに「0」を連ねた。

 

ただし例外が1つ―

 

6回ウラ、今治西は1アウト後、1番西森が内野安打で出塁。

2番渡部が送りバントを1球で決め、2アウト2塁。

 

3番笠崎。

3球続けてファウルの後、1球ボールで1ボール2ストライク。

そして小松中野が投じた5球目は、鋭く胸元を突いた。

 

しかし笠崎は、体軸の素早い回旋運動によって

バットのヘッドを見事に返し、

打球は小松のファースト宇都宮のミット数十センチ先、

1塁線をあっという間に切り裂いた。

これで1点。

 

配球の読み勝ち・・・さすがは今西の3番...

そう思った。

 

「体が勝手に反応しました」

 

これが本音らしい。

 

さらにランナー3塁で今治西は4番末廣。

カウント2-2のあとの5球目。

 

中野の投球は「ワンバウンド」。

結果は「ワイルドピッチ」

 

しかしその「ワンバウンド」と「ワイルドピッチ」は

因果関係にあるかといえば、

そうでもない所が凄い。

 

つまり「計算どおりのワンバウンド」。

 

やはり「結果」と「事実」は必ずしも同じではないことを

あらためて思い知らされる。

 

いずれにしても、今西は2点をもぎとり

これが決勝点になった。

 

そして、今西の伊藤。

 

9回表1アウトから

小松の2番尾野にヒットを許し

ノーヒットノーランの夢は潰えた。

 

それでも、9回2安打無失点で完封勝利。

 

「好投できたのはみんなのお陰。感謝です」

 

短い言葉に充実感を込めた。

 

 

 

夏の高校野球愛媛大会3回戦

 

小 松 000 000 000 計0

今治西 000 002 00× 計2

 

今治西2-0小松(第3シード)

 

 

2012年7月23日(月)

「象徴」  ~2012夏 混戦の愛媛~

拍子抜けするほどロッカールームは静かだった。

とても第1シードを破る金星をあげた直後とは思えない。

選手達は全く浮かれることなく、粛々とバッグや道具を片付けていた。

 

約10分前。

宇和島東を破った丹原。

2時間22分の試合は4対0。

第1シードに何もさせなかった。

 

現実を受け入れられず

崩れ落ちるように座り込む牛鬼ナイン。

まさかの「初戦敗退劇」だった。

 

 

s-宇和島東ナイン.jpg 

 

一方、勝利の立役者は、小笠原嵩投手。

2年生のサウスポーだ。

見事な、147球5安打完封劇。

 

なぜ?

 

いくつかのポイントが浮かんでくる。

最たるものは、打者の外角低めを丁寧に突くピッチング。

こだわりと精度は高校生レベルを越える。

 

そしてもうひとつのポイントは、

「点を取ったら点をやらない」

 

2点目をあげた直後の3回ウラ、

小笠原投手は宇和島東のクリーンアップを三者凡退。

 

また中盤6回、味方が2点を追加した直後の6回ウラも、

ランナーを2塁に背負いはするが無失点。

 

加えれば、7回表、宇和島東のエース中川が

リリーフ登板しビシッと3人斬りした直後の7回ウラも

宇和島東の1番2番3番を三者凡退。

流れが傾く隙を全く与えなかった。

 

夏をきっかけに大きく成長していく選手は必ずいる。

小笠原嵩投手。

まだ2年生。

要注目投手の登場だ。

 

2回戦 丹原4-0宇和島東(第1シード)

 

s-丹原ナイン.jpg

(スタンドに金星の報告をする丹原ナイン)

 

 

 

 

2012年7月17日(火)

「動の仕掛け」と「静の仕掛け」

「流れが変わる時」

 

 

それが受動的要因よりも能動的要因であれば、

最後の結果がどちらになっても

現場にはとても清清しい風が吹く。

 

今治球場の第1試合。

今治西vs松山東。

 

2対2の同点迎えた7回ウラ、

1アウト後、「1番池内」は

この試合3本目のセンター前ヒットで出塁。

 

大事にしなければならないランナー。

しかし「俊足」の池内。

 

勝ち越しのランナーが1塁と2塁では

そのプレッシャーのかかり具合は全く違う。

ましてや快足の「池内」なら、ワンヒットで1点。

 

ここは即、スチール・・・と思った。

 

ところが今治西の大野監督は2-2まで待った。

池内が走ったのは5球目。

結局2塁を陥れる。

 

つまり、快足池内を1塁から動かさないことで

逆に、松山東マウンド露口の打者への意識を散漫にさせ、

カウントを「フルカウント」に導いた。

まさに大野監督の「仕掛け」。

 

そして結果的に、2番檜垣はヒッティングに集中でき、

次ぎの6球目、高めのストレートをライトスタンドへ。

これが決勝の2ランホームランになった。

 

 

******************************

 

 

勝つために、

自分たちの長所を出すか。

相手の長所を消すか。

 

今治西の2番手、サウスポーの伊藤。

得意な球は大きなカーブ。

 

2点ビハインドの松山東は8回1アウト後、

1番由井がレフト前ヒット。

球種はカーブ。

 

ここで、代打が送られた。

打席は1年生の村上。

 

初球、村上はカーブを見送った。平然と。

ストライク。

これを今西のキャッチャー曽我部はどう見たか。

 

そして2球目はカーブだった。

結果はレフト前ヒット。

 

「まだ東高の1年生」だが、

初球の見送りはまさに村上の仕掛け―。

相手の最も自信のあるボールを叩くための伏線。

中学時代、四国大会優勝チームのキャプテン。

さすがの一振りである。

 

そしてランナー1塁3塁とチャンスは広がり、

3番青柳のタイムリーヒットを呼び込み

1点差に詰め寄ることになった。

 

願わくば「タラ、レバ」の世界になってしまうが

青柳のタイムリー以降、

村上が3塁に達していれば、

この試合ノーヒットの4番戎田に出せる

「サイン」の選択肢は増えただろう。

 

流れを変える「動の仕掛け」と「静の仕掛け」

目に見えないものこそ見落とせない。

 

 

 

■今治球場 1回戦   今治西4-3松山東 2時間11分

2012年7月12日(木)

「エース」とはなにか

 

「エース」は1人。

 

その重みを

今、「エース」と呼ばれる投手たちは

どう感じているのだろうか。

 

かつてエースといえば「先発完投型」が鉄則。

今や、「先発」、「中継ぎ」、「抑え」の継投が常識。

役割をきっちりこなすことが重要視される。

 

今や分析技術は業界を超えて進化し、

投手はあっという間に丸裸。

そんなご時勢に9回を投げきるのは至難の業だ。

 

ただ、チームが負けても防御率がいい投手。

防御率が悪くても勝ちきる投手。

どちらが魅力的だろう。

 

マウンドにあがる以上「勝利」に飢えていてほしい。

こだわるべきは「防御率」ではなく「勝ち星」であってほしい。

何点とられてもあきらめず、背中で野手を奮い立たせ、

終わってみれば、相手よりも1点だけ多い。

 

そんな「エースのいる野球」には「人となり」がにじみ出てくる。

ファンはそんな「人間臭い」野球を懐かしんでいる。

 

 

夏を前に1本の映画を東京・有楽町で見た。

 

「ライバル伝説 光と影」

  禁断の巨人エース争い 江川卓×西本聖

   「いつも、お前が憎かった」

 

s-ライバル伝説.jpg

 

TBSが番組を再編集し未公開シーンをふんだんに織り交ぜ劇場公開。

怪物江川が作新学院から「空白の1日」を経て巨人に入団。

その時、松山商業からドラフト外で巨人入りした西本は5年目。

ようやくローテーション入りにこぎつけた時期だけに

江川はその地位を脅かす存在になった。

 

互いが投げる試合を見ながら

「打たれろ!負けろ!」と

心の中で叫び続けていたという2人。

 

今まで一度も腹を割って話したことのない

「人生最大のライバル」の2人が

再会を果たす。

そこで2人は互いに何を語るのか。

 

(映画紹介文を参考)

 

野球が本当に輝いていたあの日を思い、

野球を再び輝かせたいと思う皆様に

おすすめします!

 

 

 

 

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