青野の「着地点」
バンクーバーオリンピック スノーボード男子ハーフパイプ。
青野選手は9位に終わった。
決勝では「絶対王者」ショーンホワイトを追って
全員が束になってかかっていったような構図になり、
メダル候補といわれる選手たちが
大技「ダブルコーク」にチャレンジしては、
成功し、そして失敗していった。
そこでは「出来た」か「出来ない」かだけが重要なことであり
ジャッジがつける得点による「順位」など
選手たちにはあまり意味がないようにも見えた。
そしてそんな様子を眺めていると
なにか小学生の頃の「度胸試し」を思い出した。
体育館に忍び込み、ステージの緞帳のレール上から
下に敷いたマットの上に飛び降りたり、
ブランコを思いっきりこいで勢いをつけ
ジャンプして柵を飛び越えたり、尻を打ったり、
公園の山の上から自転車で駆け下りたり、
橋の上から運河に飛び降りてみたり・・・
周りの評価などという概念はそこには無く、
仲間になれたか、なれないか・・・
それが全てだった時代を思い出した。
でも青野選手のジャンプが
「5F建てのビルと同じ高さ」だと分かった時、
懐かしさなどは吹き飛んだ。
それはさておき「最後の着地」。
何度も思い出しても残念なシーンだが、
着地のミスは、
直前のエアーに何かあるということで、
そのエアーで何かあるということは、
その直前のアプローチの段階で問題が生じていたと予想される。
さらにそのアプローチに影響を及ぼしていたのは
直前のジャンプの着地だろう。
どんどん遡っていくと、結局「スタート地点」に戻ってしまうが、
結局、ハーフパイプ競技の真髄は「トランジッション」、
技と技の「つなぎ目」の精度にあるのだろう。
「跳んで見なけりゃ分からない」
「出たとこ勝負や~」
そんな感覚とは無縁の、
明確な因果関係に基づいた世界なのではないか。
青野選手にこう尋ねたことがある。
「フィギュアスケートのジャンプのように
ジャンプの瞬間に、3回転を2回転に変更したりすることもあるの?」
青野選手の答えは「ない」。
「飛び出す時には上半身の先行動作が必要で、
予定回転数に合わせて準備して飛び出します。
だから、例えば空中であまり高さが無いからといって
半分だけ回転を減らそうとすると、
もう勢いが付いているので着地の失敗につながります」
で、「最後の着地」。
決勝2本目、上から予定通りのジャンプをこなし
たどり着いた最後の「一発」。
当然3回転を狙って空中に飛び出したのだろう。
しかし高さが足りず、
その分パイプの底まで飛び続ける必要が生じ、
いざ着地すると、今度は板に体重を乗せるまでの時間があまりなく、
先に雪面にエッジを取られてしまった―
と推測するがどうだろうか。
何はともあれ、
「スノーボードをたくさんの人に知ってほしい。
楽しさをもっと伝えたい」
という青野選手の思いは今回のオリンピックを通じ
十分に伝わったのではないだろうか。
「ダブルコーク」を入れなくても
「マックツイスト」を入れなくても
アクロス重信の天井さえもぶち抜くほど
回転軸のぶれない「高さ」のあるジャンプで
堂々と世界と渡り合う青野選手の勇姿は
私たちの心にしっかりと刻まれている。
慌てず、騒がず、自分のスタイルを見据える19歳の青年。
ふわりと浮かんだビルの5Fの高さから見つめていたのは
ライトアップされた美しく悩ましいあの「着地点」だけではない。
世界はもう3日前の「あの日」から
次のオリンピックに向けすでに加速し始めているのだから。
「お帰りなさい」20(日)松山空港