高橋浩由の「スポーツ素敵に隠し味」

2009年9月22日(火)

旅人たちへのエール

もう5回目だ。

またこの日がやってきた。

 

愛媛マンダリンパイレーツのホーム最終戦。

 

優勝争いをしていても、最下位争いをしていても

この日は必ずやってくる。

スタンドには「5000人」ものファンが駆けつけた。

入場料が無料だとか、特別割引があるからとかそんなことではない。

 

彼らが旅立つ前に・・・

 

 

s-ホーム最終戦.jpg 

(9月19日 坊っちゃんスタジアム)

 

愛媛で5000人が動くイベントはそうはない。

 

自宅を出て、子供をつれて、友人と待ち合わせて、電車に乗って、

迎えに行って、弁当調達して、歩いて、球場行って、チケット買って、

メガホンを何百回も叩いて・・・

 

そんなこと、自主的でなくて誰がしよう。

投票に行くよりハードルは高い。

 

それでも目に焼き付けておきたいと

坊っちゃんスタジアムにやってきた5000人。

 

少し長めの「一時停車」だったかもしれないが、

今年も「旅人」を見送るプラットホームには

大声で、あるいは心の中でエールを送る人でごった返していた。

 

試合後、選手にマイクを向ける。

表情は様々で複雑だ。

 

やりきった実感に満ち溢れている者。

やり残した後悔に苛まれている者。

 

この日、完投した「近平省悟」の言葉は印象的だった。

スコアボードに「グッバイ ベースボール」と記した近平が

この夜、およそ3時間に渡って演じた完封劇は

人の心を動かすのに十分な物語性をもっていた。

 

宇和島東時代にも同じ質問をした記憶がある。

「ピッチャーにとって大切なものは何?」

 

近平は即答した。

 

「それは、チームが勝つことです。

1対0でも10対9でも関係ありません。

自分のピッチングでチームの勝利に貢献することだけを考えて

投げてきました」

 

近平の表情は穏やかだった。

 

「夢」と「現実」が、より際立って見えてくる9月。

若き旅人たちも、秋風に敏感だ。

 

夢を叶える者

 

夢を追い続ける者

 

夢をあきらめる者

 

道は3つ。

ただ、贈られるエールはどれも等しい。

それを知っているファンが、この地には少なくない。

 

 

だがもうひとつ「今が夢の中」という生き方もあることを紹介したい。

長崎セインツに今月、1人の投手が入団した。

 

「長坂秀樹」投手。

 

愛媛の高校野球ファンならピンと来る方も多いだろう。

96年、「奇跡のバックホーム」で全国制覇した松山商業が

あの夏、甲子園の1回戦で破った東海大三高のエースがこの「長坂」だ。

 

愛媛新聞に掲載された、左足を直角に上げてタイミングを取る

長坂の「型破り」なバッティングフォームは印象深い。

 

日本でプレーするのは10年ぶりという長坂。

その間彼は、アメリカの独立リーグを渡り歩き

9つの球団でプレーしてきたという。

 

彼自身のブログによれば、

 

フロンティアリーグ  「クックカウンティー・チーターズ」

ウェスタンリーグ  「ソラノ・スティールヘッズ」

ノーザンリーグ  「リンカーン・ソルトドッグス」

ゴールデンベースボールリーグ「侍ベアーズ」

ゴールデンベースボールリーグ  「チコ・アウトローズ」

カンナムリーグ  「ナシュアプライド」

 

ズラリと見慣れないチーム名が並んでいて楽しい。

 

彼は「NPB」でも「MLB」の投手でもない。

しかし「その2つのリーグ」を除けば、

彼は立派に給料を貰いながら「ベースボール」を続けてきた。

 

 

そして「世界を旅するプロ野球選手」の第一人者が

同じ長崎セインツの「根鈴雄次」選手だ。

 

彼のことは以前にも記させていただいたが、

 

エクスポズ傘下の3Aにまで上り詰め、

アメリカ独立リーグ→メキシカンリーグ→アメリカ独立リーグ

→カナダリーグ→アメリカ独立リーグ→オランダリーグ→

BCリーグの新潟アルビレックス→長崎セインツ

 

波乱万丈の球歴にも見えるが、

世界をつなぎ、人生をより豊かにしてくれる「白球」の力を

「ネオ野球人根鈴」は静かに伝えてくれている。

 

 

夢の向こうにあるのものは何か―

 

 

「野球選手」にとって「10月29日」は運命の分かれ道だが、

「野球人」にとっては、ほんの「通過点」かもしれない。

 

「旅」の楽しみ方は人それぞれだから。

 

 

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